中所得国の罠の例、ロシア

 

 

 ロシアの経済情報

人口	1億4,654万名	2014年、世界9位
名目GDP	1兆6,306億ドル	2019年、世界11位
PPP	4兆2,134億ドル	2019年、世界6位
1人当たり名目GDP	11,327ドル	2019年、世界60位
1人当たりPPP	29,267ドル	2019年、世界49位
GDP対政府負債比率	16.33%	2014年
ムーディーズの国の信用格付け	Ba1	2016年

 

 

 ソ連崩壊とモラトリアム宣言

1960年代まで、ソ連の経済は継続的に成長してきました。しかし、1950年代後半からは毎年成長率が徐々に低下され、1970年代に入ってからは成長率が停滞する現象が発生し始めました。オイルショックでソ連の税収が大きく増え、一時的にピンチをくぐり抜けたものの、経済成長率が2〜3％台にとどまる現象は、1980年代まで続いてしまいました。つまり、経済面での改善は殆どなかったということです。 

ユーリ・アンドロポフの政権時期には成長率を再び高めようと色々試した結果、1980年代中半には若干の改善はありました。しかし、その直後、原油の値暴落による税収減少と改革に伴う反動などにより、各地方で民族主義が勃興され、結果的に、ソ連が崩壊してしまいます。ソ連の崩壊過程で産業基盤と技術基盤の大半が失われ、またエリツィン政府が多くの無能と腐敗を見せることと同時に、ロシアの経済は、1998年にモラトリアムを宣言するほど失敗してしまいます。

 

 

 ロシア経済復興と停滞

プーチン政権からはそれなりの行政改革を行い、ある程度の成果が得られました。しかし、プーチンが行政改革をするには、ソ連時代から蓄積されていた問題があまりにも多く、またロシア全体の人的レベルも以前に比べて急激に低下してしまった状況でした。それに経済の中心となるべき製造業の基盤が完全に崩壊していました。しかし幸いなことに、プーチン政権が成り立った直後、原油価格が急上昇し、石油・天然ガスの輸出によってロシア経済は復活の可能性を見つけました。

しかし、プーチン政権はそれによって得られたオイルマネーを、産業に投資し製造業を再建、やがて国民の生活の質を根本的に改善することには使わなかったです。一方、過去のロシアの栄光を取り戻すため、軍事費を大幅に増強し、自らの政治的影響力を高めるためだけに使いました。経済体質を根本的に改善してしっかりとした産業基盤を作るより、プーチン自身の長期政権維持のため、浪費したのです。

結局、地下資源の輸出に依存する後進国型の経済構造がロシアに定着してしまいました。今でもロシアは全体輸出額の内、約75%がエネルギー関連です。またロシアの証券市場でも、石油や天然ガスなどのエネルギー関連企業が占める比重が、全体の50％を超えています。 2010年以来、シェールガスの登場により原油価格が急落。プーチン政権の膨張注意のために、ウクライナ戦争に介入することによって、第1世界の国々から経済制裁を受けるなどで、ロシアの経済成長は再び打撃を受けました。その結果、現時点のロシア国民の生活水準は、2010年代初頭に停滞しています。

 

 

 

 ロシアの現状

ロシアはソ連時代からほとんどの消費財を輸入する共産主義国家であったため、消費財部門はかなり弱い方です。国内消費財の約43％を輸入に依存しています。自動車産業も、2013年基準218万台を生産しており、これは世界11位規模ですが、輸出は15万台程度にとどまり、西欧や北米市場には進出できていない状態です。2010年を基点に、グローバルブランド乗用車の生産比率が50％を越える状況になり、どんどんグローバルブランドとの競争で負けている感じです。白物家電、ディスプレイ、スマートフォンを含むモバイル・電子産業も世界レベルのブランドたちとは、競争自体が成立されていない状況です。

一方、世界1位の産油国としてイランやイラクの2〜3倍に達する産油量を持っている事は事実です。ロシアの経済はこの石油産業に依存する傾向が強く、原油価格の下落のリスクを常に掲げています。つまり、財政構造自体が根本的に弱いということです。ただし、他の資源依存型国とは違い、ロシアは多数のノーベル賞受賞者を輩出している国です。数学・物理学などの基礎科学や航空宇宙分野においてはまだ世界レベル技術力を持っている国です。また、今でも未開発の天然資源が十分残っており、広い穀倉地帯も持っています。条件はそれほど悪くないため、戦略さえ上手く立てれば再び高成長できるという楽観論もあります。